アーサーペディア
アーサー王大百科

ランスロット

人物紹介

アーサーの忠臣にして右腕たる存在。バン王と妃のエレインの間に生まれた。父の死後、母親によって湖のほとりに置き去りにされたところを、「湖の姫」にひろわれ、育てられた。長じてアーサーの信望あつい「円卓の騎士」となった。

ランスロットグウィネヴィア

グウィネヴィアを愛するようになり、密会を続ける仲となった。アストラットのエレインにも愛されるが、エレインは報いられぬままに、ランスロット恋しさに心を焦がして死ぬ。エレインという名の女性はいまひとりいる。ペレス王の娘で、カルボネックを訪れたランスロットが、煮えたぎる熱湯の風呂から救い出す。エレインの侍女ブリーセンが妖術を用いて、ランスロットエレイングウィネヴィアと思い込ませ、床をともにするよう仕向ける。この結果ガラハッドが受胎される。再び同じような状況となったとき、グウィネヴィアがその現場をおさえ、ランスロットカメロットから追放する。ランスロットは気が狂うが、「聖杯」によっていやされる。

グウィネヴィアがバグデマグス王の息子メレアガンスによって誘拐されると、ランスロットは、いやしくも騎士たる者が乗るべきではないとされる、荷車にのってメレアガンスのあとを追う。城に行き、メレアガンスを見つけるには剣の橋をわたらねばならなかった。ふたりは一騎討をするが、バグデマグスがグウィネヴィアに息子の命乞いをしたので、戦いは中断され、1年後に再開されることとなった。後に、メレアガンスはケイと不義をはたらいたとして、グウィネヴィアを責めたので、ランスロットグウィネヴィア側を擁護するためふたたび一騎討となり、バグデマグスはまたもや息子の命乞いをせざるをえなくなった。けっきょく、ランスロットはメレアガンスをアーサーの宮廷での一騎討でたおす。

ランスロットグウィネヴィアが密会現場で見つかると、ランスロットは逃亡し、ふたたび戻ってきて処刑台からグウィネヴィアを救い出すが、そのさい、アグラヴェイン、ガヘリス、ガレスを殺してしまった。ランスロットアーサーの間に戦いが始まるが、モルドレッドが反旗をひるがえしたので、アーサーは国に帰らざるをえなくなる。

異説

以上に述べたランスロットの物語の骨子はフランスものおよびマロリーから取ったものであるが、これはウルリヒの語るところとは大きく違っている。ウルリヒによれば、ランスロットはゲネヴィス王パントと妃クラリーネの間に生まれた。パント王は謀反にあって亡くなり、ランスロットは妖精に連れ去られ、「乙女の国」で育てられた。妖精は、ベフォレットのイヴェレットと一騎討をするまでは、ランスロットにその名前を教えようとはしなかった。ヨーフリット・デ・リーツに武芸を仕込まれたランスロットはガラガンドライツの娘と結婚した。妖精の息子で魔法使いのマブーツは、みずからの領土にイヴェレットの侵入を受けて困っていた。ランスロットはイヴェレットを殺し、その娘イブリスと結婚し、この結婚で4人の子どもを得た。そして最後には父親の領土を取り戻す。

名称の由来

ランスロットはケルト的想像の産物か?それとも大陸で生み出されたのであろうか?ケルト伝承のなかにはランスロットにあたる人物が存在しないことは、広く知られている。また、ランスロットという名前は、ドイツ語のラント(Land)に二重に指小語尾がついたものと一般には考えられている。しかし、R.S.ルーミスはランスロットが『プライデイ・アンヌウフン』に描かれている、アーサーとともに「あの世」を遠征するルウフ・レミナウクと呼ばれる人物と同一人物であると述べている。この遠征は『キルフウフ』に描かれるアイルランド遠征(このなかでアイルランド人のレンレアウクが手助けをして、アーサーにディウルナハの大鍋を盗ませる)と同一のものと考えてもよいかもしれない。このようにランスロットをルウフ・レミナウク/レンレアウクと同一人物とする考え方に対して、R.ブロムウィッチが反論を出している。その根拠としてあげられているのは、ランスロットを他の言語からウェールズ語に移すさい、これらのどちらの形の名前も用いられてはいないという事実である。このようなさいには、ランスロッド(Lanslod)やラウンスロット(Lawnslot)といった形が用いられているのである。しかし、この反論はさほどしりぞけにくいものではない。大陸のさっかたちはルウフ・レミナウク/レンレアウクを、音の響きが似ているランスロットに移し変えたが、これがふたたびウェールズの作家の目に留まったとき、そこに潜んでいる元来のウェールズの名前を見抜くことができずに、ランスロッド/ラウンスロットに再度移し変えたとも考えられるからである。たぶんケルトの神マボンと重なるであろうマブーツが登場するのだから、ウルリヒの物語がケルト起源であることに、まちがいはなかろう。「原ランスロット物語」には、フランスおよびドイツものにはよく出てくる、妖精に捕まるというテーマが物語られていたのではないかと推定されている。

同名

湖のサー・ランスロットの祖父。アイルランド王の娘と結婚した。バン王とボールス王は息子にあたる。

参照

コルグレヴァンス」「イル・エストラング」「24人の騎士

図説アーサー王伝説事典

索引

協力

  • 原書房
  • 東京大学大学院
    総合文化研究科 教授
    山本史郎