(ウェールズ語ではグウェンフウィヴァル)。アーサーの妻。マロリーではカメリアード王レオデグランスの娘。ウェールズの伝承では父親の名はゴグルヴァンもしくはオクヴラン、『王冠』ではガロア王ガルリンとなっている。ずっと後に書かれたセルウォールの劇『湖の妖精』(1801)では、フォルティゲルンの娘であるかのように書かれている。
ワースはモルドレッドの妹とする。ジェフリーではローマ人の血をひくとされており、アーサーがローマと戦っている間に、モルドレッドがグウィネヴィアを誘拐し、みずから王を名乗る。晩く現われたアーサー王物語の版(ヴァージョン)で初めて、グウィネヴィアがランスロットと不倫の関係を結ぶようになる。ふたりの関係が露見すると、ランスロットは逃亡し、グウィネヴィアは火刑を宣告される。しかしランスロットはグウィネヴィアを救いだし、ランスロットとアーサーの間に戦いがくりひろげられる。アーサー王の不在に乗じて、モルドレッドは反乱を起こす。アーサーは帰国してモルドレッドと戦うが、そのさいに致命的な傷を受ける。
グウィネヴィアは尼僧となる。が、その最期に関しては、さまざまに語られている。『ペルレスヴォ』 では、アーサーの存命中にグウィネヴィアが亡くなるとし、ボゥイースはピクト人の虜囚としてこの世の生をまっとうしたと述べる。アーサーとの間にロホルトという息子がいたとされるが、ロホルトはアーサーとリオノルスのあいだに生まれた子どもだともいわれる。頭韻詩『アーサー王の死』 ではグウィネヴィアとモルドレッドの間にふたりの男子が生まれたとされる。B.サクラトヴァラは、グウィネヴィアはじつはウィニフレッドという名のサクソン人だという。また、J.マーケイルは初期の話ではケイとガウェインもグウィネヴィアの恋人だったのだと考えている。ウェールズの伝承では、アーサーの妃となったグウィネヴィアはひとりではなく、3人いたのだとされる。
グウィネヴィアは、それをめぐって幾人もの人が覇をきそうような、ブリテンの王権を象徴する神話的な人物であるともいわれる。この観点からみると、グウィネヴィアはアイルランドの王権を代表する女神エラ(Eriu)と同じような人物であることになる。3人のグウィネヴィアがアーサーと結婚するという伝説がこの説のよい証拠であると、C.マシューズは考えている。3人とは言い条、じつはこれは別々の人物ではなく、三位一体の女神だというのである。グウィネヴィアとモルガンはコインの両面のようなもので、王権の優しい面と非道な一面をそれぞれ現わしているというのが、マシューズの説である。グウィネヴィアをアイルランドの女神メイヴ(Maeve)の娘フィンダバー(Findabair)と結びつけて考えようとする向きもあるが、うまくいっているようには思われない。
グィネヴィアはよく誘拐される。ということで、グウィネヴィアの物語はアイルランドの「ミダMidirとエトンEtain」の話と並行関係にあるのではないかともいわれてきた。エティンはかつて「別の世界(あの世)」でミディルの花嫁だったが、その記憶はまったくなく、現在はアイルランドの王の妃となっている。そこにミディルが現われ、いっしょに「別の世界」に戻ろうとエティンをいざなう。グウィネヴィアの場合、メレアガンスにしろ、ランスロットにしろ、あるいはガソザインにしろヴァレリンにしろ、グウィネヴィアを「別の世界」に連れ戻そうとする点ではこれと同じではないか、というわけである。
『マビノギオン』 では、グウィネヴィアにグウェンフイヴァハという名の妹がいたことになっている。フランス系の騎士物語(ロマンス)では、母を異にする双子の妹がいたとされ、この妹が一時姉と入れかわる。また、ドイツの『王冠』 のグウィネヴィアにはゴートグリムという兄がいる。