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アーサー王大百科

アヴァロン

名称の由来

最後の戦いの後アーサーが傷を癒すべく運ばれていった島の名。ジェフリーは『ブリタニア列王記』ではアヴァロ(Avallo)、『マーリンの生涯』では「林檎の島(island pomorum)」と呼んでいる。ケルト系の言語で林檎を意味するいくつかの単語(古アイルランド語のaball、中ウェールズ語のafall、中ブリテン語のavallenn、ケルト語のavalloなど)と語形が似ていることから、林檎との関連を指摘する者が多い。また、アヴァロン島に娘たちと住んでいたとウィリアム・オヴ・マームズベリーが述べている、元来は神であったと考えられるアヴァロックとの関連も無視できない。アヴァロンという現在の語形は、ブルゴーニュ地方の地名アヴァロンに影響されたものである可能性がある。しかし、アイルランド語のオイレン(「島」の意)に由来するのではないかと考える一派もある。すなわちこれは元来ケルト文化で考えられた「楽園」であり、そこでは植え育てもしないのに穀物が豊饒に実る。モルガンの愛人グインガムエル(Guingamuer)、もしくはバンゴン(Bangon)という名の王がそこを治めていたとされる。『ペルレスヴォ』ではグウィネヴィアとロホルトがアーサーより前に亡くなり、そこに埋葬されたことになっている。

所在地

後になってアヴァロンというのはグラストンベリーのことだと考えられるようになった。これは、ヘンリー2世のころにアーサー王の墓とされるものがグラストンベリーで発見され、かつ、伝説上ではアーサーアヴァロンに運ばれたということになっていたので、つじつま合わせが行なわれたということであろう。しかし、第一音節が同じだということで、「グラストンベリー」は「グラスの要塞」とも呼ばれるカイル・ウィディル(Caer Wydyr)のことであるとする説もある。そしてこれは「あの世(アンヌウフン)」の別名なのである。あるいはまた、グラスト(Glast)もしくはグラステイング(Glasteing)という名の男が林檎の木の下に8本足の豚を見つけたのを記念して、そこを「アヴァロンの島(Insula Avalloniae)」と呼んだのだとする説もある。

物語という物語がすべてアヴァロンすなわちグラストンベリー説を唱えているわけではない。『デンマーク人オジエ(Ogier le danois)』(アーサー王がらみの素材をまじえた中世フランスの物語)では、アヴァロンは「地上の楽園」の近くにあるとされる。スペイン中世の詩『ラ・ファウラ(La Faula)』では、アヴァロンは東洋の島であると考えられているようだ。語り手は鯨の背にのって東方に運ばれ、アーサーとモルガンが生きている島にたどり着いたという設定なのである。

アヴァロンは、キリスト教以前のケルトの宗教と関連があると思われる。その証拠に、『マーリンの生涯』でモルガンはこの島に住む9人姉妹の長であると述べられているが、これは、ガリアのセナ(Sena)島に住み、動物に姿を変え、不治の病を直し、未来を予言する能力をもつと、ローマの人ポンポニウス・メラが記述しているケルトの9人の女司祭たちというのと、まさに並行関係にあるのである。また、アイルランド神話では、海の神マナンナンが支配する海に浮かぶ島の名が、アマン・アヴラッハ(Emhain Abhlach)であるという事実も興味深い。

図説アーサー王伝説事典

索引

協力

  • 原書房
  • 東京大学大学院
    総合文化研究科 教授
    山本史郎